小倉です。
今回は、再びアンカー(支点)に関して書いてみたいと思います。
「アンカーの種類」
アンカーと言いましても、沢山の種類があります。
ビルでしたら、丸環(単独では使用しません)、パラペットクランプ、設備機器(空調、衛生、電気設備機器)、あと施工アンカー、カウンターアンカー、看板の基礎や鉄骨、窓などの開口部、車、躯体そのものなど。
体育館、倉庫、鉄塔でしたら、鉄骨の柱や梁。
山林でしたら、樹木や岩。
橋梁でしたら、防護柵。
その他、高層建築物に設置されているロープを掛けるための専用の支点やレール。
車両やユニットハウスなどの移動可能な重量物。
鉄骨で自作したアンカー、アルミパイプで構築されたフレーム、単管パイプを使用したジンポールやAフレーム。
地中に打ち込んだ単管や鉄筋など。
「15kN」
これが問題です。
通常、ロープ高所作業(ロープアクセス)を行っていれば、装備の99%はPPE(個人保護用具)であるはずです。
しかし、アンカーに関する規格というものは、この世に存在しません。
いくら規格を通った装備をにつけていても、アンカーが破断すれば全て終わりです。
弊会では、講習時に最低破断荷重が15kN以上のアンカーを構築すると伝えています。
では、どのように15kNに耐えられるアンカーを構築するか。
と言っても、構造物に対しては、実際に破断試験を行うわけにはまいりませんので、計算上とか仮定の話になります。
もちろん、破断試験を行えるものに対しては、破断試験を行い、15kNに耐えられることを確認するのがベストです。
「あと施工アンカー(金属拡張系) 」
今回は、あと施工アンカーに焦点を当ててみます。
仕事が設備関係でしたら、日々、あと施工アンカーを打ち込んでいると思います。
空調関係でしたら特に、室内機を吊り込む際や室外機を設置する際にあと施工アンカーを打設します。
躯体がRC造ならもちろん、SRC造やS造でもデッキプレートを使用していればあと施工アンカーを使用します。
普段、何気なく使用しているあと施工アンカーですが、ロープ高所作業(ロープアクセス)の支点として使用する場合は、しっかりとした計算が必要になります。
通常、エアコンの室内機であれば重量は50kg未満であり、それを4本のアンカーで支えるので、1本当たり15kgも掛かりません。
しかし、ロープ高所作業(ロープアクセス)を行う場合、1つの支点に対して15kN以上の荷重に耐えられるように打設しなければなりません。
では、15kNの荷重に耐えられる あと施工アンカーとはどのようなものでしょうか。
あと施工アンカーを打設する場合、アンカー自体の破断荷重(引っ張りと剪断)はもちろん、コーン状破壊による躯体(コンクリート)の破壊を考慮しなければなりません。
アンカーメーカーの数値では、SUS製の外径12.5mm、全長40mm、使用ボルト径10mmで引張最大荷重18.4kN、剪断最大荷重26.0kNというような計算値がでております。
それは、あと施工アンカーを打ち込んだ躯体(コンクリート)が、破壊しないことを前提に算出された数値です。
実際は、上記の数値に達する前に躯体(コンクリート)が「コーン状破壊」を起こします。
例として、NSC Rescue 講習で伝えている、あと施工アンカーの引張耐力を記載します。
(へり空き効果、群効果は考慮していません。)
・アンカーボルトM12、本体打ち込み式、雌ネジタイプ、金属拡張系アンカー
・外径 da=17.3mm
・接合筋の有効断面積 bae=84.3㎟
・接合筋の規格降伏点強度 σy=235N/㎟(SS400)
・埋込長さ ℓ=50mm
・コンクリート圧縮強度 σB=21N/㎟
・低減係数 φ1 2/3(長期), 1(短期)
φ2 1/3 (長期), 2/3(短期)
〈有効投影面積(Ac)の計算〉
有効埋込長さ( ℓe): ℓe= ℓ-da=50-17.3=32.7mm
有効水平投影面積(Ac):π・ℓe(ℓe+da)=π ✕ 32.7 ✕(32.7+17.3)=5134㎟
〈コーン状破壊により決まる場合のアンカー1本当たりの引張耐力(Ta2)の計算〉
Ta2=0.75 ✕ 0.313√ σB・Ac=0.235√ σB・Ac
Ta2=0.235√21 ✕ 5134=5529N≒5.5kN
〈設計上の許容引張力((Ta2)a)の計算〉
(Ta2)a=φ2 ・Ta2
長期(Ta2)a=1/3 ✕ 5.5=1.8kN
短期(Ta2)a=2/3 ✕ 5.5=3.7kN
以上、コーン状破壊で決まる許容引張力は短期で3.7kNとなりました。
更に、へり空き効果や群効果を考慮すれば、更に数値は低くなります。
接合筋の降伏による引張耐力(Ta1)を計算すると、
Ta1=σy・bae
Ta1=235 ✕ 84.3=19.8kN
設計上の許容引張力((Ta1)a)を計算すると、
(Ta1)a=φ1・Ta1=φ1・σy・bae
長期(Ta1)a=2/3 ✕19.8=13.2kN
短期(Ta1)a=2/3 ✕19.8=19.8kN
となり、鋼材が耐えられても、コーン状破壊によってあと施工アンカーが破壊されることがわかります。
上記の数値は、実際の試験結果と同じになるわけではありませんが、参考にはなります。
(NSC Rescue講習では、実際にあと施工アンカーを打設し、破壊してお見せします。)
上記の結果から、アンカーが太いほど、アンカー有効長が長いほど、コーン状破壊の耐力も大きくなることがわかります。
しかし、ペツルのハンガーを使用する場合は、ハンガーに空けられた丸穴により、あと施工アンカーの直径が決まってしまいます。
そうなると、あと施工アンカー自体の長さが重要になります。
現場で実際にアンカーを打ち込まれている方は分かると思いますが、コンクリートの強度(特に表面)が、実際の強度に足りていない事など日常茶飯事です。
それを考えれば、計算ではじき出された許容引張力 7.5kN以上のアンカーを、最低3本(1本は予備)は打設する必要があると考えます。
あとは、各自で計算を行い、許容引張力 7.5kN以上のあと施工アンカーを選定して下さい。
「ファンスの基礎」
先日、仲間の職人さんに、フェンスの基礎について聞かれました。
「フェンスの基礎は15kNに耐えられるのか」と。
実際に引張試験を行っているわけではありませんので100%ではありませんが、答えは15kNには耐えられないです。
以下、私が15kNに耐えられないと考える理由を書きます。
まず、ビルを建てている中で、フェンスが設置されると言うことは。RC造であれSRC造であれS造であれ、陸屋根であり屋上があります。
屋上自体は、コンクリートでできたもの、ALCを敷き詰めたもの、デッキにコンクリートを打設したものなどがあります。
そして、防水工事を行い、その防水層を守る為に軽量コンクリートを流し込みます。
フェンスを設置する場合は、通常であれば屋上の防水工事が終了してから、フェンスの基礎となるコンクリートの升を並べます。
そして、防水層を守る軽量コンクリートを屋上に流し込み、升を固定します。
軽量コンクリートの養生期間が終わると、升にコンクリートを流し込みフェンスの支柱を固定し、フェンスを取り付けます。
よって、フェンスの基礎は、躯体に固定されているわけではありません。
軽量コンクリートで升の周りを固められているだけです。
上記の工程から、私には、フェンスの基礎がとても15kNに耐えられるとは思いません。
講習でいつもお伝えしていますが、アンカーを構築するなら、まずは重量物が一番です。
重ければ重いほどアンカーとして適しています。
アンカー選定の際、物体を大きなものとしてとらえ、できるだけ大きく重いものを選定して下さい。
「動荷重試験」
最後に、アンカーを構築した際、必ず行わなくてはならないことがあります。
それは動荷重試験です。
私がフルハーネスなどの標準装備を装着すると、重量が85kgになります。
その私が全体重を掛け、どんなに力を込めて動荷重試験を行っても、アンカーには1.7kNしか掛かりません。
もし、1.7kNで破壊するものにぶら下がれば、アンカーが破壊し墜落します。
講習時にいつもお伝えしていますが、動荷重試験はアンカーを壊すつもりで行って下さい。
もし、動荷重試験でアンカーが破壊すれば、それはラッキーです。
考えてもみて下さい。
もし、1.7kNで破壊するようなアンカーにぶら下がったらどうなるか。
アンカーの破壊だけはなんとしても避けなくてはなりません。
それでは本日はこの辺で。
皆様、ご安全に!!